お葬儀の豆知識
葬儀費用は相続放棄をする人も遺産から支払いできる?いくらまでなら安全?注意点とは?
・葬儀費用は相続放棄をしても遺産から払える?
・相続放棄をしながら葬儀費用を遺産から払う注意点は?
・葬儀費用として認められる金額の目安は?
葬儀費用は相続放棄を検討している人でも、故人の遺産(相続財産)から支払うことができます。
けれども全てが葬儀費用として認められる訳ではなく、遺産を持ち出したとして相続放棄ができなくなる点には、注意が必要です。
本記事を読むことで、安全に故人の遺産から葬儀費用を支払いながら、相続放棄ができるポイントや注意点が分かります。
葬儀費用は相続放棄をしても支払いできる
◇葬儀費用を故人の遺産から支払っても、相続放棄は可能です
そもそも相続放棄は相続することが分かった時点から3か月以内に申告することで、原則可能でしょう。
3か月以内に相続放棄の申告をしても認められないのは、無条件に故人の遺産を相続する「単純承認」と法廷が判断する行為を相続人が行った「法廷単純承認」です。
法廷単純承認とみなされる、具体的な行為は主に下記3点となります。
・相続財産の処分
・3か月以内に相続放棄しなかった
・相続放棄の後に背信的な行為をした
葬儀代を故人の遺産で支払う行為が、法定単純承認に該当するかどうか?に関しては、「相続財産を処分」に該当するかが問題です。
裁判例でも学説でも、一般的には「社会通念上の範囲内であれば」法定単純承認とみなされないため、基本的には葬儀費用を故人の遺産から支払っても相続放棄が可能です。
そもそも「相続放棄」とは
◇相続人が被相続人の全ての権利義務の承継を拒否する意思表示です
相続放棄をするためには、相続の開始を知ってから3か月以内に、家庭裁判所に申述書を提出して手続きを行います。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で相続放棄の手続きを行い、受理されることで相続放棄が認められるでしょう。
また相続放棄だけではなく、遺産の範囲内でのみ借金を返済する「限定相続」の選択も、3か月以内であれば可能です。
<単純承認と相続放棄> | |
①単純承認 | …故人の遺産を無条件で相続 (財産、借金の全て) |
②限定相続 | …相続財産の範囲内で借金を負担 |
③相続放棄 | …全ての相続を放棄 (財産、借金の全て) |
相続人全員が相続放棄すると、財産は最終的に国庫が管理します。
ただ相続財産管理人が選任されるまで、相続人は遺産の管理義務があり、相続放棄しても、すぐに財産と関係がなくなるわけではありません。
葬儀費用は相続放棄をする人が負担できる?
◇葬儀費用は相続放棄をする人が負担をしても問題はありません
一般的に喪主が葬儀費用を負担しますが、法律上は誰が負担するかは自由です。
相続放棄を検討している喪主や相続人が、自腹で葬儀費用を負担しても、相続放棄には影響はありません。
葬儀費用を相続放棄をする人が立て替えるならば、最初から故人の遺産を充てると良いでしょう。
入院費の支払いはできる?
◇「死亡退院」の清算を遺産から払うと、相続放棄が適用しません
「死亡退院」とは、故人が入院中に死亡して退院することです。
この際、亡くなるまでの入院費を清算する時に、故人の遺産を充てると相続放棄ができなくなる可能性があります。
被相続人の預金を解約して支払いに充てたことで、相続財産を処分したことになり、法律上相続を単純承認したものとみなされるためです。
<入院費は遺産を充てない> | |
①相続人の財産で清算 | …相続放棄が可能 |
②遺産から清算 | …法廷単純承認とみなされる可能性 |
また相続放棄を家庭裁判所に申し立てて受理された後でも、故人の遺産から入院費を支払っても、法廷単純承認とみなされます。
葬儀費用で相続放棄ができる範囲
◇葬儀費用と認められる範囲内で遺産を充てます
葬儀費用は自腹で支払う分には問題ないのですが、故人の遺産を充てる場合、法的に葬儀費用と認められる範囲内に留めなければ、法廷単純承認とみなされる事態にもなりかねません。
葬儀費用と認められる範囲内を理解して、あまり豪華な葬儀を避け、社会通念上で一般的な葬儀に留めると良いでしょう。
葬儀費用とみなされる範囲
◇お通夜、葬儀、火葬に関わる費用が該当します
葬儀や火葬の他、お通夜や遺体の運搬費、お布施、参列者にふるまう飲食費も葬儀費用に含まれ、相続放棄をしても故人の遺産から充てることが可能です。
・遺体の捜索・搬送
・遺体の安置
・死亡診断書
・お通夜・葬式
・火葬費
・納骨
・お布施など
そのため葬儀の規模はあまり大きかったり、華美なものは避けましょう。
近年では戸建てを貸切った家族葬や音楽葬なども見受けますが、あまり新しい形式ではなく、社会通念上、一般的な規模の葬儀が適切です。
・【沖縄葬儀の種類】家族葬や一般葬・一日葬など、規模が違う7つの種類
葬儀費用とみなされない範囲
◇追善供養やお墓の購入は、葬儀費用とみなされません
故人のご遺体やご遺骨を葬送するために必要な、通夜や葬儀などの儀式は葬儀費用としてみなされますが、その後の追善供養は葬儀費用に該当しないため、相続放棄ができなくなる可能性があります。
葬儀費用を払いつつ相続放棄を検討している場合、下記の費用は自腹、もしくは相続人同士で負担すると良いでしょう。
・香典返し
・位牌
・墓地や墓石
・法要
通夜や葬儀当日に行う供養(読経供養)は葬儀費用として認められるケースが多いですが、葬儀会場から場所を移した「繰り上げ初七日」などの追善供養や、別日に行う法要は、葬儀費用に適用しません。
けれども香典は施主が参列者からいただく贈与なので、を法要や納骨式の費用に充てることはできます。
・葬儀費用は相続税控除の対象になる?控除対象になる・ならない項目、申告の方法や注意点
葬儀費用を遺産から払いつつ、相続放棄をする注意点
葬儀費用を故人の遺産で充てつつ相続放棄をするポイントは、法的に葬儀費用として認められる費用のみを引き出すことです。
・領収書や明細書を残す
・葬儀の規模に配慮する
・申告は正確に記載する
そのため故人の預貯金口座から引き出したお金を、葬儀費用に使ったことを証明すること、申告時に嘘偽りのない内容を記載することが、最も大切な事柄となります。
領収書や明細書を残す
◇領収書や明細書、使い道のメモを残します
故人の遺産を葬儀費用に充てた証拠として、領収書や明細を残すことは大切です。
領収書が発行されない、お布施や心付けなどは、葬儀費用を支払った人が残した覚書などでも良いでしょう。
・支払った日付
・支払った相手
・支払った金額
以上をまとめて記録しておきます。
尚、心付けも葬儀費用に含まれますが、コチラも一般的な範囲内に限るため、目安としては約2千円~5千円ほど、多くても1万円までに留めましょう。
葬儀の規模
◇葬儀の規模は一般的な範囲内です
相続放棄を行いつつ、遺産からお葬式代を支払うためには、葬儀の規模が過度に華美にならないように注意が必要です。
贅沢な葬儀を行うと、財産の処分において単純承認の判断が下される可能性があります。
照会書(回答書)
◇照会書(回答書)は真実のみを記載します
家庭裁判所で相続放棄手続きを済ませると、後日、照会書と回答書が届きます。
照会書(回答書)など、家庭裁判所に提出する書類は事実を正確に記入しましょう。
虚偽の情報を裁判所に提出すると罪に問われたり、相続放棄が認められない可能性もあるためです。
葬儀費用は相続放棄をしても請求できる?
◇健康保険の葬儀費用は相続放棄をしても請求できます
国民健康保険や健康保険に加入していた人が亡くなると、葬儀費用として一時金が支給されますよね。
葬儀費用であっても「相続放棄をしたから受け取れない」と考える相続人もいますが、健康保険から支払われる葬儀費用は、葬儀を執り行った家族へ支給するお金です。
そのため相続財産には含まれず、必然的に健康保険から受け取る葬儀費用として、相続放棄をしても葬祭費・埋葬費を請求することができます。
香典は相続放棄をしても受け取りできる?
◇香典の受け取りは相続放棄に影響がありません
香典は故人の遺産とは別物で、喪主や遺族に対して相互扶助として、参列者から受け取る行われる贈り物です。
このようなことから、香典を受け取っても相続放棄は可能です。
もちろん香典から葬儀代を支払った場合でも、問題なく相続放棄ができます。
相続放棄をしてももらえるもの
◇この他、相続放棄をしてももらえるお金があります
故人の遺産の一部を使用したり、故人の預貯金口座を解約して現金を使うと、原則として単純相続とみなされますよね。
けれども葬儀費用や香典のように、故人の遺産から支払ったり、受け取っても相続放棄に影響しない類のお金があります。
具体的には以下のような項目です。
<相続放棄ができるもの> | |
①受け取り | ・死亡保険金 ・未支給年金 ・遺族年金(死亡一時金) ・故人の身の回りの品物 ・換金価値のない形見分け |
②遺産からの支払い | ・医療費 ・葬儀費用 ・相続債務の弁済 (保存行為とされるもの) |
これらを相続財産から受け取ったり支払ったりしても、一般的には法廷単純相続にはなりません。
ただし前述した死亡退院の支払いなど個々の事情は異なるため、判断に迷った場合は専門家に相談することをおすすめします。
まとめ:葬儀費用は遺産で充てても、相続放棄が可能です
葬儀費用は故人の遺産を充てても相続放棄ができますが、その使い道が社会通念上認められる葬儀の範囲内で、適切なものでなければなりません。
また故人の預貯金を引き出しても、それを使用する意図がなく、他の相続人や債権者に対して隠していないとなれば、遺産を保管しているだけと捉えられ、法定単純承認にはならないことがあります。
ただ目的がなければ、相続放棄ができないリスクが高まるだけなので、現金で保管する必要はないでしょう。