お葬儀の豆知識
葬儀費用は相続税控除の対象になる?控除対象になる・ならない項目、申告の方法や注意点
・葬儀費用は相続税控除の対象になる?
・相続税控除の対象になる葬儀費用の範囲とは?
・葬儀費用の相続税控除は、どのように申告する?
葬儀費用は故人の葬送に必要な費用であり、相続財産にはあたらないため、葬儀費用は相続税控除の対象になります。
けれども必要最低限の葬儀費用として認められる項目ばかりではありません。
本記事を読むことで、そこまでの葬儀費用が相続税控除の対象になるか?対象となる費用項目や対象外の費用項目、相続税控除の申告方法が分かります。
葬儀費用は相続税控除の対象になる?
◇葬儀費用は相続税の控除対象です
ただし通常の葬儀で支払う必要最低限の葬儀費用が相続税の控除対象となるため、全ての葬儀費用項目が控除対象ではありません。
<葬儀費用の相続税控除> | |
[控除適用者] | ・葬儀費用を支払った者 |
[相続人同士で分割] | ・相続人全員が控除適用者 |
[遺族以外が支払い] | ・遺族以外でも控除適用者 |
例えば遺言書により法廷相続人以外にも、友人や知人が相続人になるケースもありますが、この場合にも葬儀費用を支払ったならば相続税控除の対象です。
このように、誰が支払うかは相続税に大きな影響を与えます。
そもそも「葬儀費用」とは?
◇故人の葬送にかかる費用が「葬式費用」です
宗教や宗派によって儀式の呼び方は異なりますが、故人のご遺体や遺骨の葬送にかかった費用を葬儀費用とし、ご遺体の搬送を含めたお通夜や葬儀、火葬など、通常の葬儀にかかる費用を差します。
昔は一般的な仏教式であれば、葬儀費用は約200万円~300万円ほどを目安としましたが、最近は参列者の少ない家族葬などが増え、費用相場も減少傾向です。
鎌倉新書により2020年に実施された調査「第4回お葬式に関する全国調査」によると、飲食・返礼品費用・お布施を除き、火葬場・斎場使用料などを含めた葬儀費用の全国平均は119万1,900円となります。
・鎌倉新書2020年3月実施「第4回お葬式に関する全国調査」
葬儀費用は誰が払う?
◇一般的に、葬儀費用は喪主が支払います
ただ法的に葬儀費用を支払うべき人を定めているわけではありません。
あくまでも一般的に喪主が負担することが多いだけで、相続人同士で話し合いを行うなどして、負担割合を決めることは問題ありません。
・受け取った香典で支払う
・遺族同士で負担割合を決める
・相続財産を充てる
前述したように葬儀費用は全国平均で約119万円、家族葬など葬儀費用を抑えても数十万はかかるものが多いため、家庭の事情に応じて、相続人同士で話し合いを行い、最適な支払い方法を決めることをおすすめします。
葬儀費用は故人の預貯金から支払いできる?
◇葬儀費用を故人の預貯金から引き出すことは可能です
故人の銀行口座は金融機関が故人の死を確認した時点で凍結されます。
けれども2019年7月1日から施行された「遺産分割前の相続預金の払い戻し制度」により、葬儀費用を引き出すことは可能です。
・他の相続人に相談をする
・最低限の葬儀費用の範囲内でおろす
・相続人の相続範囲内でおろす
・領収書や明細を細かく取っておく
・相続放棄を検討している人は慎重に利用する
仮に相続放棄を検討している人でも、葬儀費用であれば故人の預貯金財産から引き出して支払うことはできます。
ただし葬儀費用と認められる範囲内を越えていたり、葬儀費用と認められる領収書などの証拠が残っていない場合には相続財産と捉えられ、相続放棄ができなくなる可能性もあるので、充分な注意も必要です。
・葬儀費用が心配な方へ。故人の貯金を充てる方法と注意点とは|預金口座から下ろすには?
葬儀費用が相続税控除の対象となる項目
◇葬儀費用で控除されるのは、必要最低限の項目です
国税庁では葬儀費用が相続財産から控除できる項目として、葬儀を執り行うにあたり絶対的に必要な項目を挙げています。
具体的に該当する項目は以下です。
・医師の死亡診断書
・通夜や告別式にかかる費用
・葬儀場への交通費
・葬儀に関連する飲食代(通夜や告別式)
・遺体の搬送費用
・火葬料や埋葬料
・お手伝いさんへの心付け
・運転手さんへの交通費
・お布施や読経料、戒名料
・納骨費用
・その他通常の葬儀に伴う費用
目安としては葬儀当日にかかった葬儀費用は相続税控除の対象となり得ます。
そのため初七日法要などの法事にかかる費用は葬儀費用に含まれません。
けれども葬儀当日に行う「繰り上げ初七日」法要や、納骨式にかかった費用、例えば僧侶へのお布施などは、葬儀費用の相続税控除対象となるでしょう。
下記より、いくつかの項目について、解説をしていきます。
・国税庁:令和5年4月1日現在法令等「No.4129:相続財産から控除できる葬式費用」
医師の死亡診断書
死亡診断書の発行費用も、死亡診断書は葬儀と直接の関係はありませんが、役所に死亡を届け出て火葬の許可を得るために必要ですので、葬儀費用の相続税控除対象です。
葬儀場への交通費
通夜や告別式にかかる費用には、祭壇設営費や葬祭場の使用料、棺・骨壺などの費用の他、霊柩車やマイクロバスの費用も含まれ、葬儀費用の相続税控除の対象となります。
葬儀に関連する飲食代
葬儀に関連する飲食代は、通夜の振る舞いや精進落としなど、会葬者に料理や飲み物を提供するための費用です。
飲食店や仕出し弁当の利用の他、スーパーマーケットやコンビニで購入したものも該当します。
遺体の搬送費用
遺体の捜索、遺体や遺骨の運搬にかかった費用は、葬儀費用ではありませんが、葬儀を行うために必要な葬儀費用の範囲内として、相続税控除の対象です。
お手伝いさんへの心付け
お手伝いさんへの心付けは、葬儀の受付や会葬者の接待などを手伝ってくれた方へのお礼の気持ちを示すものです。
また霊柩車の運転手さんなどに渡すお礼も、葬儀費用に含まれます。
心付けの金額には決まりがありませんが、極端に高額な場合は控除が認められない可能性もあるので、その金額には注意が必要です。
多く包んでも1万円までとしましょう。
葬儀費用として認められるのは、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用」とされているためです。
お布施や読経料、戒名料
お布施、戒名料、読経料、僧侶など宗教者に交通費として渡す「お車代」の他に、食事を辞退された際に渡す「御膳料」も、葬儀費用として相続税控除の対象となります。
納骨費用
納骨にかかった費用も差し引くことができますが、墓石の開閉など納骨自体にかかった費用に限られるため、注意をしてください。
墓石の彫刻料や、納骨式でのお布施や食事代などは差し引くことができません。
その他通常の葬儀に伴う費用
香典返しとは別に、参列者に会葬御礼として品物を手渡す場合は、その費用を葬式費用として相続財産から差し引くことができます。
ただし、香典返しの代わりに会葬御礼を手渡す場合は、その費用は香典返しと見なされ、相続財産から差し引くことはできません。
相続税控除の対象外となる項目
◇法事やお墓の購入、香典返しにかかる費用は含まれません
葬儀費用として相続税控除の対象となるのは、故人のご遺体やご遺骨の葬送にあたり、必要最低限の費用になるため、その後の供養に関する費用は含まれないためです。
具体的な項目に分けていくと、以下になります。
・香典返し
・墓石や墓地の購入
・墓石の彫刻費用
・法事にかかる費用
(初七日、四十九日法要など)
・生花やお供え物
・位牌、仏壇の購入
・医学的、法的な特別処置
・通常の葬儀に関連しない費用
近年では故人の葬送に関し、海洋散骨なども見受けますが、これらはセレモニーの一種で葬儀費用として相続税控除の対象にはなりません。
この他、葬儀費用で相続税控除の対象外となるいくつかの項目について、下記より詳しく解説します。
香典返し
そもそも香典は収入として計上する種類のお金ではないため、そのお返しとなる香典返しもまた、葬儀費用の相続税控除対象にはなりません。
しかし葬式に参列してくれた方たちにお礼を渡す「会葬御礼品」や会葬礼状などは、葬式費用に含めることができます。
生花やお供え物
喪主以外の人々が供花やお供え物をお渡しした場合、これは供物と捉えるため、葬儀費用として相続税控除の対象にはなりません。
香典が遺族が受け取るものであり、収入に数えられないことと考え方は同じですが、喪主が自ら祭壇に供えるものとして用意した場合は葬儀費用に含めて計上することが多いでしょう。
この場合は葬儀費用として相続税控除の対象になります。
墓石や仏壇仏具の購入
故人が亡くなるとお墓を建てたり、仏壇を購入して供養することは一般的ですが、葬儀費用として相続税控除の対象となるのは、あくまでも故人のご遺体やご遺骨を葬送するにあたり、最低限必要な費用です。
そのため社会通念としては一般的な行為なのですが、葬送とは直接関係がない供養として、葬儀費用に含まれません。
法事にかかる費用
初七日や四十九日法要など、法事にかかる費用は葬送ではなく供養にあたるため、対象外です。
ただし葬儀当日に「繰り上げ初七日」法要を執り行う場合は、葬儀費用に含まれます。
「繰上げ初七日」とは、葬式と初七日を同時に行うことです。
通常は亡くなった日から数えて7日目に初七日を行いますが、身内が遠くに住んでいる場合、1週間後に再び集まることは困難ですよね。
そのため、葬式と初七日を同時に行うことがあります。
●葬儀の日に繰り上げ初七日を行う場合でも、場所を移すと控除が認められないことがあります。
法要の場所を移して行ったことで、追善供養に該当すると捉えられ、控除は認められなかった判例があるので、場所は変えないよう、注意をしてください。
もちろん、分けて行う場合は初七日にかかった費用はもちろん、葬儀費用に含まれません。
葬儀費用の相続税控除の手続き方法
◇申告書第13表「債務及び葬式費用の明細」で申告します
葬式費用の相続税控除の手続きは、相続税の申告書第13表「債務及び葬式費用の明細書」の様式を使用します。
①領収書や明細表を取っておく
②「葬儀費用の明細」を記載
③「債務及び葬式費用の合計額」を記載
申告書第13表「債務及び葬式費用の明細書」には、「葬儀費用の明細」と「債務及び葬式費用の合計額」を記載する項目があるため、それぞれに必要事項を記入して、取っておいた領収書や葬儀費用の明細表などを添付する流れです。
そのため葬儀費用の使い道が分かる領収書などは、細かく保管する必要があります。
お布施や心付けなど、領収書が発行されない類のものはメモなどでも構いません。
領収書やレシートが切れない費用項目だけではなく、紛失した費用に関しても、メモなどで補填できます。
・国税庁:申告書第13表「債務及び葬式費用の明細書」
②「葬儀費用の明細」を記載する
支払先の名称(氏名)や所在地(住所)に書く項目は、葬儀社やお寺、タクシー会社など、費用ごとの支払先です。
・支払先の名称(氏名)
・所在地(住所)
・支払年月日
・葬式費用の金額
・負担することが確定した葬式費用
「負担することが確定した葬式費用」には、それぞれの費用を負担される相続人の氏名と、負担する金額を書きましょう。
③「債務及び葬式費用の合計額」を記載する
「債務などを継承された方の氏名」に、葬式費用を負担された相続人の氏名を書いていきます。
領収書やレシートの他、葬儀費用を支払った人が自ら書いたメモやリストから計算すると良いでしょう。
・債務などを継承された方の氏名
・負担することが確定した葬式費用
・負担することが確定していない葬式費用
・債務及び葬式費用の合計額
遺産分割協議がまだ整っていない場合は、「負担することが確定していない葬式費用」に、法定相続分に応じた金額を書いていきます。
葬儀費用の相続税控除での注意点
◇葬儀費用はそもそも相続財産に含まれません
葬儀費用は相続税控除の対象となりますが、その計算方法を勘違いしている人も多いです。
正確には故人の葬送は必要な儀礼として、相続財産に含めず計算します。
・控除を利用できない人がいる
・葬儀費用は相続財産に含めず計算する
・葬儀費用は確定申告の対象外
ちなみに相続税の申告手続きは10か月と申告期限があるので、この点にも注意をしましょう。
下記より、葬儀費用の相続税控除に関する注意点を、より詳しく解説していきます。
控除を利用できない人がいる
葬儀費用の相続税控除制度は、基本的に葬儀費用を支払った全ての人々に適用されます。
けれども、そもそも相続財産を受け取らない人の他、適用しない人もいるので、事前に確認をしましょう。
<葬儀費用の相続税控除が適用しない例> | |
・制限納税義務者 | (国内の財産だけに相続税がかかる人) |
・特定受遺者 | (特定の財産を遺贈された人) |
・相続放棄者 | (相続を放棄した人) |
ただし相続を放棄された方は、当初から相続人ではなかったとして、基本的に相続税申告義務がなく、必然的に相続税の控除対象にもあたりません。
けれども相続放棄者が遺贈を受けていた場合には、事情が異なります。
相続放棄者であっても相続税の申告義務が発生し、葬儀費用を支払っていた場合には、控除が認められるでしょう。
葬儀費用は相続財産に含めず計算する
◇葬儀費用の相続税控除は、最初から相続財産から差し引きます
葬儀費用は相続税を算出する前に、相続人が取得する相続額から差し引く計算です。
相続財産から控除されるのではありません。
●3,000万円の相続財産、葬儀費用が180万円のケース
→相続税の課税対象…3,000万円-180万円=2,820万円
2,820万円から相続税を計算していく方法です。
葬儀費用は相続財産として数えないため、故人の葬送に不可欠である適切な金額であれば、故人の預貯金から支払った後も、相続放棄が可能になる理由でもあります。
確定申告の控除は対象外
◇葬儀費用は確定申告の対象外です
そもそも相続財産(遺産)は所得ではありません。
そのため葬儀費用の控除のために確定申告を行っても、控除対象にはならないため注意をしてください。
葬儀費用には相続税のみが控除対象です。
まとめ:葬儀費用は相続税控除の対象です
葬儀費用は相続税控除の対象にはなりますが、社会通念として故人の葬送に不可欠な通夜や葬儀、火葬に関わる葬儀費用にのみ適用します。
葬儀当日とは別日に執り行う初七日や四十九日法要など、追善供養に関しては控除の対象外ですので注意をしてください。
また葬儀費用はあくまでも相続税の控除対象であり、そもそも相続財産は所得ではないので、確定申告による控除は適用しません。
そのため葬儀費用は喪主や法廷相続人など、「誰が支払うか」もその後の税対策で影響を及ぼします。